musiquest >> classes 2021:musical

ミュージカルの歴史 第9回 音声付きスライド
history of musical #9 slide with audio

国立音楽大学2021年度講義『ポピュラー音楽研究F ミュージカルの歴史』第9回
オンライン授業用の動画と文字おこしです。
>> HOME

◆配布資料

●動画1

9 ロックミュージカル(1-1)

●動画2

9 ロックミュージカル(1-2)

●動画3

9 ロックミュージカル(1-3)

●講義内容(文字おこし)

・導入

前回はスティーブン・ソンドハイムの作品を見ていただきました。
明るく楽しいという一般的なミュージカルのイメージを塗り替える作品たちでした。
みなさんの中にも、そこが面白いという人も結構いらっしゃいました。ぜひ生で見てみたい、という声もあって、うれしかったです。
さて今回はロック・ミュージカルを取り上げます。こちらもまた、それまでのミュージカルの在り方に対する反発から生まれたものでした。

これまでの授業で見たように、ミュージカルの音楽スタイルは、最初は19世紀以来のヨーロッパ的なスタイルをもとにしながら、アメリカ的な新しい要素をそのつど取り込んできました。
1920年代にはガーシュインがジャズを取り入れ、50年代にはバーンスタインがジャズに加えてラテン音楽の要素も導入しました。
一方、その頃から、ちまたではロックという新しいジャンルが大流行していたのですが、ミュージカルはロックとは無縁の存在のままでした。

ロックについて簡単にまとめておきましょう。
ロックは1950年代に、黒人音楽の新しい流行として現れ、白人の間にも広がっていきます。
そしてエルヴィスプレスリーというスターの登場で、ロックは人種を超えた存在となり、世界的にも若者の音楽として大流行します。

 視聴:プレスリー「ハウンド・ドッグ」

60年代半ばになるとビートルズが登場し、さまざまな試みによってロックの音楽性を広げ、ポピュラー音楽全体に影響を与えていきます。

 視聴:ビートルズ「ハード・デイズ・ナイト」

・ロックの音楽的特徴

ロックの音楽的な特徴は、まず激しいリズム、それもエイトビートのように細かく刻まれたリズムです。
次に、エレキギターなどの電気楽器を用いて、アンプやエフェクターを使った大きく刺激的なサウンドを鳴らします。
またヴォーカルが力強く叫ぶのも、ロックの特徴です。

こうした激しい音楽性のため、ロックは「若者のエネルギーのあらわれ」、「大人たちの社会に対する反抗の音楽」としてとらえられてきました。
前回も申し上げましたように、当時のミュージカルは「ゆとりのある大人たちの社交の場」でしたから、ロックは馴染むものではなかったのです。
そこに、若い世代が自分たちの新しい音楽を持って乗り込んできた。それがロック・ミュージカルでした。

・社会的背景

1960年代半ば、アメリカの若者たちにはベトナム戦争が重くのしかかっていました。当時のアメリカは徴兵制をとっていましたから、自分とは本来関係のない遠いアジアの戦いのために、若者たちは戦争に行かなければならなかったのです。こんな世の中はいやだ、という思いから、若者たちの間に反戦運動が広がります。

また大人たちの作った社会への反発から、若者だけの自由な生き方を追求しようと、ヒッピーと呼ばれる人たちが集団生活を行うようになります。彼らは男性でも髪を伸ばし、奇抜なファッションで身を包んだり、フリーセックスを実践したりします。また、現実から逃れるために、大麻や合成麻薬などのドラッグが流行しました。
そういう若者文化が、最初のロック・ミュージカル、「ヘアー」を生み出したのです。

・《ヘアー》1967

ヘアーというタイトルは文字通り髪の毛のこと。自由な髪形は、当時の若者の価値観を象徴するものでした。
まずは、ミュージカルヘアーの登場にまつわるドキュメントをご覧ください。

 視聴:「ヘアー」解説

ヘアーは上演によってしばしばストーリーに手が加えられています。ここでも適当な舞台映像がないので映画版をご覧いただきますが、この映画版も、人物の設定やストーリーにいろいろ独自の手が加えられていることを、まずお断りしておきます。

まずは冒頭。徴兵のために田舎から出てきた青年クロードは、ニューヨークの公園でヒッピーの青年バーガーたちと知り合いになり、反戦を主張する彼らからさまざまな影響をうけます。

 視聴:「ヘアー」映画版冒頭

彼らはクロードが公園で知り合った女性を好きになったのを知って、彼女にもう一度合わせようとして騒ぎを起こし、警察に捕まってしまいます。
仲間の一人ウーフは留置場で長い髪を切れと言われ、抵抗して歌います。ミュージカル全体のタイトルにもなっている、「ヘアー」という歌です。

 視聴:「ヘアー」映画版より「ヘアー」

仲間のリーダー、バーガーの母親のおかげで彼らは無事留置場から出ることができ、クロードは予定通り軍隊に入ります。そして彼のベトナム行きが決まると、彼らはもう一度クロードを彼女に合わせてやろうと計画し、クロードを兵舎から連れ出して、その身代わりにバーガーが兵舎に忍び込みます。ところがタイミング悪く、バーガーはそのままベトナム行きの飛行機に載せられてしまうのです。

 視聴:「ヘアー」映画版よりバーガーの出征~終結

なかなか考えさせられる結末でしたね。

・《ジーザス・クライスト・スーパースター》1970

さて、いまの「ヘアー」に続いてロックのサウンドをミュージカルに取り入れ、世界的な話題となったのが、イギリスのアンドリュー・ロイド=ウエッバーによる1970年の作品、「ジーザス・クライスト・スーパースター」でし
た。

この作品は、イエスを人間として描くというその視点から賛否を巻き起こしましたが、音楽的には、その芸術性と完成度の高さがもたらす説得力によって、ロックのサウンド、エレキギターやドラムの音を、すっかりミュージカルに定着させることになりました。

こういうサウンドはいまや当り前になっているので、いま、劇団四季の舞台などでこの作品に触れる人は、どこが「ロックミュージカルなの」と思う人がいるかもしれません。
そこでまず、1973年に作られた映画版の一部をご覧ください。さきほどの「ヘアー」と同じ時代、同じ文化の中で成立した作品だということがお分かりいただけると思います。

 視聴:「ジーザス・クライスト・スーパースター」映画版(1973)冒頭

今の映画版は、作品成立当時の雰囲気はよく味わえますが、そのぶん古めかしい感じもしてしまうので、このあとは2000年に作られたスタジオ収録の映像をご覧いただきます。先ほども少し申しあげましたが、この作品はイエス・キリストを一人の人間として描きます。

ここでのイエスは、人々の支持を集め影響力を強めていく中で苦悩し、彼の恋人マグダラのマリアや弟子のユダはそういうイエスを心配します。そして最後に、イエスは神がなぜ自分に試練を与えるのか問いながら、十字架にかけられるのです。

まずは物語の初めの方、どんどん神格化されていくイエスの姿にユダがだんだんこれで良いのか、と思い始める場面です。衣装はちょっと今風になっていますので、ご了承ください。

 視聴:「ジーザス・クライスト・スーパースター」(>2000、スタジオ収録)より「彼らの心は天国に」

そんなユダやマリアの心配をよそに、イエスはますます人々から称えられていきます。

 視聴:「ジーザス・クライスト・スーパースター」(2000、スタジオ収録)より「ホザンナ」

影響力を強めるイエスの存在をうとましく思ったローマ帝国は、イエスを処刑することにします。
それを知ったイエスは、なぜ自分が死ななければならないのか、悩みながら神に祈ります。
このミュージカルの中でも有名な「ゲッセマネの祈り」です。

 視聴:「ジーザス・クライスト・スーパースター」(2000、スタジオ収録)より「ゲッセマネの祈り」


しかし運命は変えられません。イエスは十字架に向かい、ついに天に昇るのです。

 視聴:「ジーザス・クライスト・スーパースター」(2000、スタジオ収録)より終結部分

さて今回は、ロックのサウンドを取り入れてミュージカルに新しい時代をもたらした2つの作品、「ヘアー」と「ジーザス・クライスト・スーパースターを取り上げました。」

次回はその後のロック・ミュージカルの代表「レント」と、「ジーザス」の作曲者でその後のミュージカル史を塗り替えるロイド=ウエッバーについて取り上げます。
よろしくお願いします。



吉成 順

>> TOP>> HOME
転載・転用の際は御一報ください。引用は自由です。Copyright © 2021,2025 Jun YOSHINARI Last update: 202506