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ミュージカルの歴史 第8回 音声付きスライド
history of musical #8 slide with audio

国立音楽大学2021年度講義『ポピュラー音楽研究F ミュージカルの歴史』第8回
オンライン授業用の動画と文字おこしです。
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◆配布資料

●動画1

8 ソンドハイム(1)

●動画2

8 ソンドハイム(2)

●動画3

8 ソンドハイム(3)

●講義内容(文字おこし)

・導入

前回は、バーンスタインの作品を見ていただきました。
バーンスタインと言えば何といっても「ウエストサイド」ですが、それ以外の作品にも触れていただきました。みなさん、しっかり見てくださって、中でも「キャンディード」がわりと好評だったのは、嬉しかったです。

今回は、スティーブン・ソンドハイムの作品を取り上げます。
それ誰?という人もいらっしゃると思います。アメリカではミュージカル界の超大物なのですが、日本ではなかなか人気が出ませんでした。
理由の一つは、彼の作品に渋いというか暗いというか、「明るく楽しいミュージカル」というよくあるイメージから、かけはなれた作品が多いからだろうと思います。

でも近年では、日本でも彼の作品がよく上演されるようになり、とりわけ、ソンドハイム自身からの評価も高い演出家、宮本亜門が積極的に取り上げています。「スウィーニー・トッド」「イントゥ・ザ・ウッズ」といった作品が映画化されたことも彼の知名度を高めました。

ソンドハイムは、まず作詞家としてデビューしました。しかもデビュー作はあの「ウェストサイド・ストーリー」です。彼は子供の頃からオスカー・ハマースタインII世のもとで育てられたのですが、彼自身は作曲にも情熱があり、クラシック系現代音楽の作曲家ミルトン・バビッドのもとで本格的に作曲を学びます。そうして彼は作詞と作曲の両方を手掛けるようになるのです。

 視聴:ソンドハイム解説(1)

ソンドハイムの作品は、さっきも渋いとか暗いとか言いましたが、一般的なミュージカルのような娯楽性が少なく、どちらかといえばクールでシニカルな傾向がよく見られます。社会派、と言っても、差別問題を正面きって取り上げるようなタイプではなく、社会を斜めに見て皮肉るような、ドライな視線、が特徴なのです。ダンスシーンが少ないのも彼の作品の特徴です。

音楽的にもクールで、ストラビンスキーやプーランクの新古典主義的な乾いた響き、ミニマルミュージックにも通ずるような細かいモチーフの繰り返しが目立ちます。サンプルとして、ス
ウィーニートッドの一部をお聴きください。

 視聴:「スイーニー・トッド」新演出音源

・「カンパニー」

そうした傾向の作品としてソンドハイムが最初に注目を浴びたのは、1970年の「カンパニー」という作品でした。題名の「カンパニー」は、ここでは人の集まり、パーティーのような集い、を意味しています。アメリカの大人たちは人付き合いを大事にして、なにかといえば集まってパーティーをします。幸せな家庭を持ち、友人関係や家族関係を大切にするのが、社会人として大切なことなのです。でもみんな、本当にそれを求めているんでしょうか。本当に幸せなんでしょうか。

当時のミュージカルは、お金と時間にゆとりのある大人たちのものでした。カンパニーという作品は、そんな観客たちの価値観の裏側をさらけ出して、大きな衝撃を与えたのでした。

 視聴:「カンパニー」解説

これからご覧いただくのは、2006年の新演出です。

 視聴:新演出の紹介

この新演出では、登場人物全員が同時に楽器も演奏します。

 視聴:新演出の楽器演奏について

いやあ、近頃では歌が歌えるだけじゃミュージカルは務まらないんですね。

ということろで、少しかいつまんで内容を見ていきましょう。
主人公は35歳の独身男ボビー。その誕生祝いに沢山の友人たちが集まって、ボビーに結婚を勧めます。

 視聴:「カンパニー」冒頭

でもその彼ら自身は、必ずしも自分たちの生活に満足しているわけではありませんでした。
結婚式を前にして不安ばかりが募る女性。

 視聴:新妻の不安

お金持ちでジムやカルチャースクールに通って優雅に暮らしながら、そういう上辺の生活に飽き、夫への愛も冷めている熟年妻。

 視聴:熟年妻の不安

いろんな都会生活の裏側が見え、ボビーは耳を閉ざします。
そして終結。部屋の中にいるボビーの耳に、集まった人たちの声が聞こえます。

 視聴:終幕

こうして観客は、はぐらかされつつも深い感慨にとらわれることになるのです。

・「太平洋序曲」

「カンパニー」のあと、ソンドハイムは日本の開国を扱った「太平洋序曲」を発表します。

 視聴:「太平洋序曲」解説

この「太平洋序曲」は、話題にはなったものの、興行的には成功しませんでした。

・「スウィーニー・トッド」

そして1979年、代表作である「スウィーニー・トッド」が生まれます。
ミュージカルの歴史で最初の怪奇もの、ホラーミュージカルです。

舞台は19世紀のロンドン。当時のロンドンはたくさんの猟奇的な事件が起こっていて、そういう事件をもとにしたような小説もたくさん書かれました。「スウィーニー・トッド」も、その一つです。

昔、だまされて自分の奥さんと娘を奪われた主人公が、刑務所から戻り、床屋をしながら復讐をとげる、という話です。2007年にはジョニー・デップ主演で映画化もされましたので、ご覧になった方も多いでしょう。

 視聴:「スウィーニー・トッド」解説

・「ジョージの恋人」

「スウィー二・トッド」のヒット後、ソンドハイムはしばらく沈滞しますが、1984年、芸術をテーマにした「ジョージの恋人」で再び成功し、トニー賞やピュリッツァー賞を受賞します。

 視聴:「ジョージの恋人」解説

・「森の中へ(イントゥ・ザ・ウッズ)」

そして1987には、いくつかの昔話を下敷きにした「森の中へ(イントゥ・ザ・ウッズ)」が生まれます。私は日本語で「森の中へ」と 言った方がわかりやすくて好きなんですが、2014年にディズ ニーが映画化したのが日本で公開された時「イントゥ・ザ・ウッズ」と いうカタカナのタイトルだったので、そっちの方で知られるよう になってしまいました。

映画を作ったのがディズニープロダクションだということ、童話がもとになっているということから、子供向きの作品だと思った人が多かったのでしょう、映画の評価は惨憺たるものでした。
でも、原作はソンドハイムです。ハッピーなわけがない。もともと大人向きの辛口の作品なのです。

これはディズニーが悪かったと、私は思います。本来の作品の価値を歪め、ソンドハイムに傷をつけた責任はとても大きいと思います。ここでは映画版ではなく「森の中へ」の舞台のはじめ、3つのおとぎ話が絡み合っていく発端の部分をご覧いただきます。ちなみに、この字幕は、私が自分でつけました。

 視聴:「森の中へ」舞台版冒頭

いかがですか?この作品、来年の1月に日生劇場で上演されます。ぜひその機会に舞台版をご覧いただきたいと思います。

さて、今回はスティーブン・ソンドハイムの作品をいくつか見てきました。ハッピーなミュージカルのイメージとはちょっと違いますが、ソンドハイムに関心を持っていただけたら嬉しいです。

吉成 順

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