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ミュージカルの歴史 第6回 音声付きスライド
history of musical #6 slide with audio

国立音楽大学2021年度講義『ポピュラー音楽研究F ミュージカルの歴史』第6回
オンライン授業用の動画と文字おこしです。
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◆配布資料

●動画1

6 黄金時代(1)

●動画2

6 黄金時代(2)

●講義内容(文字おこし)

・導入:ここでの黄金時代とは

前回はディズニーが音楽と映像の関係、そしてミュージカル映画の発展にどのような貢献をしたか、を見ていただきました。
感想も色々いただきましたが、一番最初の蒸気船ウイリーが印象深かったという人が多かったのはちょっと意外でした。まあ、最初とは思えないほどすごく良くできてますからね。
今回は、これまで見てきた様々な発展を受けて、ミュージカル文化の華が開いた時代、ミュージカルの黄金時代を取り上げます。「今だって黄金時代じゃないか」と思う人は、「最初の黄金時代」と思っていただいてもかまいません。

これまでの流れをまとめておきます。「ショーボート」からの約10年、舞台のミュージカルはやや停滞気味、ミュージカル映画も、数は多いものの「後世に残るほどの傑作」は現れませんでした。
その間に頑張っていたのが前回見たディズニーで、そのディズニーが最初の長編アニメ「白雪姫」を世に送ったのが1937年、そしてミュージカル映画の中から今や古典的な存在となった「オズの魔法使い」が生まれたのが1939年。そしてその後、1940年代になって、しばらく鳴りを潜めていたオスカー・ハマースタイ
ンがリチャード・ロジャースと手を組んで再び登場します。

40年代50年代と、ロジャース&ハマースタインは次々に傑作を生みだしていきます。そして彼らに刺激されて、同じようにストーリー性を重視しつつ、魅力的な音楽にあふれた作品がたくさん生まれてきます。
「マイフェアレディ」、「ウエストサイド・ストーリー」、「屋根の上のヴァイ
オリン弾き」、「ラマンチャの男」
。いまでも繰り返し上演される名作ばかりです。

一方、ミュージカル映画の中からも、今や古典的な存在となり、その後舞台でも定着するようになった「雨に歌えば」が登場します。

こうして、この授業では、この1950年代60年代をミュージカルの黄金時代、と名付けたいと思います。ロジャース&ハマースタインの活躍に刺激されて、たくさんの才能の中からたくさんの傑作が生まれた時代です。いくつか見ていきましょう。

・「雨に唄えば」(1952)

まず1952年のミュージカル映画「雨に唄えば」。これは、映画に音が付くようになった頃の物語です。前々回、4回目の授業を思い出してください。
無声映画で活躍していた女優リナは、実は声が良くない。トーキーになってそれがバレたらどうしよう。そうだ声だけ別の人に吹き込んでもらおう、ということになって、映像はリナさん、声はキャシーさんが担当することになるのですが、そのことを明らかにするか、内緒にするか、でもめてしまいます。リナはもちろん内緒にしたい、でもキャシーが表に出られなくなるのもかわいそう、というわけです。主人公が恋の喜びに夢中になって雨の中を踊り続ける場面は有名です。

 視聴:「雨に歌えば」(1952)より

・「マイ・フェア・レディ」(1956)

次に1956年の「マイ・フェア・レディ」。ロンドンの下町の娘が言語学の教授
にしつけられ、貴婦人に仕立て上げられるおはなしです。まずはドキュメンタリーをご覧ください。

 視聴:「マイ・フェア・レディ」解説

舞台での初演を成功させたのはジュリー・アンドリュースでしたが、映画版の主役にはオードリー・ヘップバーンが起用されました。当時を代表するファッションデザイナー、ピエール・カルダンによるスタイリッシュな衣装は彼女の魅力を引き立てています。主人公イライザが社交界にデビューする競馬場の場面で
す。

 視聴:映画「マイ・フェア・レディ」より競馬場の場面

・「オリバー!」(1960)

「マイ・フェア・レディ」の翌年に「ウエストサイド・ストーリー」が登場する
のですが、これは次回扱うことにして、次に見るのは1960年の「オリバー!」です。この作品、実は1970年ごろからあまり日の目を見ない時期が続いたのですが、近年再評価の声が高く、実はたった今も渋谷のシアターオーブで上演中です。

ふつうミュージカルはアメリカのブロードウエイから世界に発信されるものが多いのですが、このオリバーは、まずロンドンで作られ、ヒットしてからブロードウエイに進出して、世界的な成功を収めることになりました。こういうヨーロッパ発のミュージカルは70年代以降に増えていくのですが、その先駆けとなった作品です。

原作は19世紀イギリスの小説家ディケンズの「オリバー・ツイスト」。舞台はさっきの「マイ・フェア・レディ」と同じロンドンで、ひとりぼっちの少年オリバーが孤児院を追い出され、ロンドンでスリの一味に拾われるなど苦労を重ねていく物語です。台本、作詞、作曲をすべてライオネル・バートが手掛けています。映画版の中から、まず、オリバーが地下室に閉じ込められ、幼いころに夢で見た優しい人に会いたいな、と歌うところです。

 視聴:「オリバー!」より「愛はどこに」

オリバーは地下室を抜け出して大都会ロンドンにたどり着きます。ロンドンの人ごみの中で、オリバーは子供たちのスリ集団の一人、ロジャーと出会い、仲間になろう、と誘われます。日本では当時オリバーのマーチという名前で流行った曲です。

 視聴:「オリバー!」より「信じてみなよ(オリバーのマーチ)」

スリの元締めはとてもいやな奴で、オリバーは何とかそこから抜け出ようとします親切な女性ナンシーが酒場の中で楽しい歌を歌い、みんなの気をそらせている間に、オリバーは逃げ出します。この歌も、当時は日本でも流行ったんですよ。

 視聴:「オリバー!」より「ウンパッパ」

・「屋根の上のヴァイオリン弾き」(1964)

次は1964年の屋根の上のヴァイオリン弾き。ハロルド・プリンスのプロデュース、ジェローム・ロビンスの演出と振付による作品で、ロシアのユダヤ人たちの歴史と生活を描き、伝統を守ることの意味について考えさせる作品です。まずドキュメントをご覧ください。

 視聴:「屋根の上のヴァイオリン弾き」解説

続いて映画版から若いカップルの結婚式の場面。有名なサン
ライズサンセットが歌われます。

 視聴:「屋根の上のヴァイオリン弾き」より結婚式の場面(サンライズ・サンセット)

・「ラ・マンチャの男」(1965)

最後に、1965年のラマンチャの男。有名なドン・キホーテの物語を、主人公ドン・キホーテと作者セルバンテスを重ね合わせながら描いています。映画版もあるのですがあまり良くないので、日本での公演1200回を記念するドキュメントから少しご覧
いただきます。なお映像中の松本幸四郎さんは、いまは松本白鸚を襲名されています。

 視聴:「ラ・マンチャの男」ドキュメンタリー

さて、今回は1950年代60年代、ミュージカルの黄金時代の名作をざざっとみてきました。今も上演され続けている名作ばかりでしたね。次回は今回取り上げられなかった「ウエストサイド・ストーリー」を含むバーンスタインの作品です。お楽しみに。


吉成 順

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