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ミュージカルの歴史 第4回 音声付きスライド
history of musical #4 slide with audio

国立音楽大学2021年度講義『ポピュラー音楽研究F ミュージカルの歴史』第4回
オンライン授業用の動画と文字おこしです。
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◆配布資料

●動画1

4 初期の映画とミュージカル(1)

●動画2

4 初期の映画とミュージカル(2)

●講義内容(文字おこし)

・映画の初期史

今日は、ミュージカルととても関係の深い映画の話、初期の映画の発展過程やミュージカル映画の話をします。
えー、せっかくミュージカルらしい話になったのに、また離れるのー?という声が聞こえてきそうですが、実は映画とミュージカルには、きってもきれない関係
があるんです。ちょっと我慢してしばらくお付き合いください。

写真というものは19世紀の中ごろから普及していましたが、それをつなげて絵を動かす、つまり動画の技術は、19世紀から20世紀へと時代が変わるころに、生まれました。

・キネトスコープ

一番古いのはエジソンのキネトスコープというもので、これは箱の中でフィルムを回し、上の穴からのぞき込む、という装置で、コインを入れて一人で楽しむものでした。そういうのが何台も並んで、今ならゲーセンみたいな感じで見てたわけです。

 視聴:キネトスコープ解説

キネトスコープでは、当時のバラエティショーで人気があった、ダンスやボクシング、コントなどを見ることができました。当時のキネトスコープ用のフィルムをいくつかご覧ください。なお、当時は音が付いてない、サイレントの映像だけですので、よろしくお願いします。まずは、男女がキスをしているだけの場面。

 視聴:キネトスコープ映像〈キス〉

何が面白かったんだろう、という感じですが、当時の人には珍しかったんですね。次はヘビの踊りという、当時ヴォ―ドビルショーで大人気だったダンスです。

 視聴:キネトスコープ映像〈ヘビの踊り〉

生で見たらなかなかの迫力だったかもしれません。次はボクシング。ボクシングも、当時は見世物として、町の広場なんかで興行してたんですよ。

 視聴:キネトスコープ映像〈ボクシング〉

次は女子寮の枕投げ。何それ。

 視聴:キネトスコープ映像〈枕投げ〉

・シネマトグラフ

さて、エジソンの覗きからくり方式と違って、今の映画と同じように映像を壁に映してみんなで見る、という形は、少し遅れて、フランスのリュミエール兄弟が1895年に発明したシネマトグラフが最初です。

工場の入り口にカメラをすえ、そこに出入りする人々を撮すだけのものや、駅に集う人々を撮すだけものなど、今から見れば何が面白いのかよく分からないものでも、人気があったようです。工場の一日です。

 視聴:シネマトグラフ映像〈工場の一日〉

今のシネマトグラフも、絵が動くだけで、音はついていませんでしたが、シネマトグラフの場合は、映写機の音がうるさくて、それをごまかすために会場でピアノを弾いていたそうです。でもその曲は映画と全く関係のないものでした。

・無声映画

20世紀にはいると、ジュール・ヴェルヌのSF小説を下敷きにした「月世界旅行」など、ストーリー性があり、映像テクニックにも凝った作品が現れます。いわゆる無声映画、サイレントムービーの本格的な始まりです。メリエスの月世界旅行。

 視聴:〈月世界旅行〉

次はポーターの〈大列車強盗〉。

 視聴:〈大列車強盗〉

1920年代に入ると、大掛かりな作品も生まれます。無声映画の傑作といわれる〈戦艦ポチョムキン〉の、有名な階段の場面です。

 視聴:〈戦艦ポチョムキン〉

・トーキー映画

そしていよいよ1927年、音の出る映画、トーキー映画が誕生します。

 ・映画と音楽

映画に音や音楽をつけよう、という試みは、ごく初期の頃からありました。
さっきもいったように、シネマトグラフは最初から上映中にピアノを鳴らしていましたが、それは映写機の音を隠すためで、映画の内容とは関係ありませんでした。

 ・生演奏

そのうち、映画館に専用の演奏家をおいて、映画の内容に合わせて生演奏する、というやり方が行われるようになります。
大きな劇場ではフルオーケストラ、小さい小屋ではピアノ一台、と編成は様々で、みんながよく知っている出来合いの曲を、映画の雰囲気に合わせて聞かせていました。

その後、そういう既存の曲の使い回しではなく、その映画のためにわざわざ新しい伴奏音楽を作曲する、ということが始まります。
その最初の作品がフランスの〈ギーズ公の暗殺〉というもので、サン=サーンスが曲を提供しました。

 視聴:〈ギーズ公の暗殺〉

1916年の〈シヴィリゼーション〉という映画では、そのために作られた曲のスコアが映画フィルムと一緒に配給され、どこの映画館でも同じ音楽で伴奏されるようになりました。

 ・レコード

1920年代になってレコードが普及してくると、スコアではなくレコードがフィルムと一緒に配給されるようになり、生演奏の代わりにレコードの音が映画を伴奏するようになります。

 ・ヴァイタフォン

でもフィルムに合わせて手作業でレコードをかけると、タイミングがうまく合いません。そこで、自動的に撮影と録音を同時に行い、再生の時にも映像とレコードが同期するようなシステムが考えられました。それがヴァイタフォンというシステムです。そしてこのシステムで、歴史上最初の音のついた映画が誕生します。〈ジャズ・シンガーという作品です。

 ・サウンドトラック

でも、フィルムとレコードを合体させるやり方は、二つの機械を同時に動かすわけで、あまり合理的とは言えません。そこで、映像も音も一つのフィルムの上に記録する、光学録音の方式が考えられました。いわゆるサウンドトラック式です。

映画フィルムの端っこに音波を光学的に記録する帯状の部分、サウンドトラックを設けて、光の強弱を音波に代えて再生する、というものでした。その後のトーキーは、このサウンドトラック式が主流になっていきます。

・ミュージカル映画の初期史

ところで映画に音が付くようになると、とうぜん音楽劇、ミュージカル映画が盛んに作られるようになります。
最初のトーキー映画、〈ジャズ・シンガー〉自体が、舞台歌手を主人公とする、ミュージカル映画のようなものでした。

主人公は、ユダヤ教の教会音楽家の跡継ぎでありながら、ミンストレルショーで黒人に扮して歌う若者です。ガーシュインのスワニーをヒットに導いたスター、アル・ジョンソンが演じました。映画の大半はサイレントとして作られ、主人公が歌うところだけ、レコードを使ったバイタフォン方式になっていました。

 視聴:〈ジャズ・シンガー〉(1927)

その後もサウンドトラック方式になって、たくさんのミュージカル映画が作られますが、実際の舞台の現場、ブロードウエーを題材にした、いわゆるバックステージものも人気でした。1929年の〈ブロードウエー・メロディー〉は、ティンパンアレーの楽譜屋さんに曲を探しにきた姉妹が舞台で成功していく物語です。

 視聴:〈ブロードウエー・メロディー〉(1929)

ミュージカルの歴史を塗り替えた傑作〈ショーボート〉も、1936年に、舞台版のキャストで映画化されます。

 視聴:〈ショー・ボート〉(1931)

 ・オズの魔法使い

そして1939年、映画オリジナルのミュージカルの傑作、〈オズの魔法使い〉が誕生します。アメリカ人ならだれでも知っている物語を、魅力的な映像と音楽でミュージカル映画にしたてて大成功したのです。アメリカの田舎暮らしに疲れた少女ドロシーは、虹の向こうの夢の世界に行ってみたいな、と願います。

 視聴:〈オズの魔法使い〉(1939)より〈虹の彼方へ〉

突然やってきた竜巻に吹き飛ばされて、着いたところは不思議な世界でした。ドロシーはそこでカカシ、ブリキ男、弱虫ライオンと出会って、みんなでオズの魔法使いを訪ねて冒険を重ね、ついにオズの魔法使いがいるエメラルドシティーにやってきます。

 視聴:〈オズの魔法使い〉(1939)より〈エメラルド・シティー〉

この映画は大ヒットし、その後舞台へも進出して、今では映画舞台関係なくミュージカルの古典として位置づけられています。国立音大でも、2年前に音楽研究所というところが当時できたばかりのミュージカルコースの学生も交えて上演しました。

 視聴:〈オズの魔法使い〉舞台版より

 ・日本のミュージカル映画

〈オズの魔法使い〉と同じ1939年、昭和14年には、日本でも日本初のミュージカル映画、〈鴛鴦(おしどり)歌合戦〉が誕生します。江戸時代の若殿さまと町娘の恋を描いたコメディーで、日本風のメロディーにジャズ風のサウンドが重なって面白い作品になっています。タイトルロールを見るとミュージカルではなくオペレッタと書かれているのも、興味深いです。

 視聴:〈鴛鴦歌合戦〉(1939)より

その〈鴛鴦歌合戦〉に少し遅れて登場するのが〈歌う狸御殿〉という作品で、カチカチ山やぶんぶく茶釜など、昔話に出てくる狸が人間に化けてお城の舞踏会にいく、という荒唐無稽なお話です。

 視聴:〈歌う狸御殿〉(1939)より

この作品はとても人気が出て、その後もたくさん同じシリーズで作品が作られました。2000年代に入っても、宝塚の舞台で取り上げられたりしています。

 視聴:〈桜吹雪狸御殿〉(宝塚公演)より

今回は映画が誕生し、そこに音楽が付き、ミュージカル映画が生まれていく様子を眺めました。〈オズの魔法使い〉〈鴛鴦歌合戦〉〈歌う狸御殿〉など、映画がオリジナルで、その後舞台でも上演されるようになった作品もありました。
次回はディズニーの話です。よろしくお願いします。

吉成 順

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