3 「ショー・ボート」とロジャース&ハマースタイン(1)
3 「ショー・ボート」とロジャース&ハマースタイン(2)
前回はミュージカルが確立するころの周辺の話をしましたが、今回は私たちが「これがミュージカルだ」と思えるようなものが、いよいよ登場します。
毎回同じことを言ってる気がしますが、1920年代のブロードウエイはバラエティーショー中心で、全体を通して流れるストーリーというのは重視されていませんでした。
そこにストーリーの一貫性をもたらし、しかも社会的な問題作としてミュージカルの存在意義を高めたのが、〈ショーボート〉という作品です。
台本作者はオスカー・ハマースタイン2世。1927年の〈ショーボート〉でミュージカルの歴史を塗り替えたあと、のちには作曲家リチャード・ロジャースとのコンビでたくさんの名作を生むことになる人物です。ロジャースとの仕事については授業の後半で眺めていきます。
作曲はジェローム・カーン。前回出てきたティンパンアレーの作曲家として数々のヒット曲を生み出していた人です。それがハマースタインという若い台本作者と出会い、斬新な発想で社会派のミュー
ジカルを作ることになったわけです。
彼らがプロデューサーとして選んだのはジーグフェルド。あの絢爛豪華な舞台で大評判だった人です。前代未聞の社会派ミュージカルを成功させるには、どうしてもこの人の力が必要だ、と二人は思ったんですね。
タイトルのショー・ボートとは、船と劇場が一緒になったようなもので、ミシシッピー河を行ったり来たりしながら立ち寄る街で興行を打つ、というものです。
ミシシッピ川はいわゆる5大湖から出てメキシコ湾に流れていく大きな川です。上流には大都市シカゴがあり、下流にはニューオルリンズという、ジャズが生まれた町がありました(地図)。
この川を行ったり来たりしながら、ショーボートは、たくさんのエンターテイナーを載せて、あちこちの港でショーを見せていたのです。
〈ショーボート〉という作品の画期的なところは、華やかな世界の裏側にある社会問題、具体的には人種差別の問題を描いていることです。
この映画で描かれているのは1880年代。リンカーンによる奴隷解放から20年もたっています。当然黒人差別はなくなっているだろう、と思うかもしれませんが、そうではなかったのです。
奴隷制はなくなりましたが、差別は残っていました。しかも、前よりもやっかいなことが起こっていたのです。奴隷解放以前の南部では、黒人と白人のハーフは白人扱いで、白人との結婚も自由でした。ところが、法律が新しくなって、ハーフは黒人扱い、白人との結婚はできなくなってしまったのです。物語はちょうどそんな時代背景から始まります。
一座の花形である女性、結婚しているのですが、この女性に横恋慕している男がいて、ある港に着いたとき、この女性が実は黒人とのハーフである、と密告してしまうのです。そこをきっかけに長いドラマが始まっていくのですが、まずはそのことを頭に入れて、この作品についてのドキュメントをごらんください。
視聴:《ショー・ボート》の解説
なお、このミュージカルの中で一番ヒットしたナンバーは、黒人の男性が朗々と歌う〈オールマンリバー〉という曲ですが、これはオールドマン・リバー、つまり老人である川ということで、ミシシッピ川をお年寄りに見立てて、昔からの出来事を何もかも見つめながら、ゆったりとうとうと流れていく、と歌っているのです。
今のドキュメントに出てきた映像は主に1936年の白黒映画のものでしたが、その後1951年に作られたカラーの映画で最初の部分をご覧ください。社会派的な要素だけでなく、当時のバラエティーショーの要素もふんだんに散りばめられて、楽しいものになっています。
視聴:《ショー・ボート》から
さて、ショーボートの後ハマースタインはしばらくヒットに恵まれないのですが、1943年、若い作曲家リチャード・ロジャースとコンビを組んで、大成功をおさめます。二人の最初の作品〈オクラホマ〉はアメリカの田舎を舞台に、アメリカ人ならだれもが共感できる要素をちりばめ、しかもそこにストーリー性とダンスの魅力も加わって、質の高い作品に仕上がったのでした。
視聴:ロジャース&ハマースタインのドキュメント
その後は〈回転木馬〉、プロデュース作として〈アニーよ銃をとれ〉、そして〈南太平洋〉とヒッ トを続けます。〈南太平洋〉は戦争中の話ですが、そのときアメリカが戦っていたのって 日本なんですよね。ちょっと複雑です。
視聴:ロジャース&ハマースタインのドキュメント(続き)
〈南太平洋〉の次は〈王様と私〉。タイの王室の家庭教師となったイギリス人女性アンナの
物語です。数年前にブロードウエイでリバイバルされ、王様の役を渡辺謙さんが演
じたことが話題になりました。ここはユル・ブリンナーが王様、デボラ・カーがアンナ
を演じた映画からご覧いただきます。アンナが王様にダンスを教える有名なシャル
ウイダンスのシーンです。
視聴:〈王様と私〉から〈シャル・ウイ・ダンス〉
シャルウイダンスって、日本の映画のタイトルにもなりましたから、学生さんの中にはそっちが先だと思ってる人もいらっしゃるのですが、実はこっちが先なんですよ。
さて、そのあとにTVミュージカル〈シンデレラ〉というのをはさんで、有名な〈サウンド・オブ・ミュージック〉。本学のミュージカル・コースも取り上げた名作中の名作ですね。残念ながらこれがロジャース安堵ハマーシュタインの最後の作品になってしまいます。
ドキュメントをご覧ください。
視聴:ロジャース&ハマースタインのドキュメント(続き)
次回もよろしくお願いします。