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音楽概論: 音楽のコモンセンス
月曜 10:40-12:10 5-311教室
「音楽概論」という講義名ですが、内容は西洋芸術音楽以外のさまざまなジャンルを概観するもので、
のちの「音楽文化論」のひな形となるものです。
>> 2002年度の授業内容
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- 科目名:音楽概論
- 講義題目:音楽のコモンセンス
- 担当者:吉成 順
- クラス:1~4
- 期:通年
- 単位:4
- 授業計画及び内容:
「音楽概論」というと、普通は楽典に音楽史や楽器法の概略を加えたようなものをさすことが多いのだが、数年来この授業では「音大生としての最低限の常識を身につける」ことを目標とし、ポピュラー音楽や民族音楽を含む音楽の様々なジャンルを知ることと、西洋音楽史の様々な時代のスタイルを理解することを中心に、音楽文化を広く浅く眺めることを行ってきた。今年度もその路線を続ける。
「広く浅く」では物足りない、という意見は当然あろうが、歴史的に見てもかつてないほどに複雑多様化した現代の音楽文化の中で、ともすれば道に迷ってしまいがちな学生にとっては、詳細すぎる地図より大雑把な見取り図の方が役に立つこともあるだろう。逆に、どんなにややこしい音楽の森の中でもすいすい歩いていけるだけの知識や勘を持っている人、また迷うこと自体を楽しめるような好奇心の強い人などには、この授業は不必要だろう。
ともかく、学生諸君の(最低限の)知識の穴を埋め、不安を解消し、少しでもよいから役に立ててもらうことが目標なので、こちらの予定や方向性にかかわらず「あれが知りたい」「これが分からない」というような要望を積極的に出してくれることを望んでいる。
とりあえず、通年(前期12回、後期12回予定)の授業の中で、次のような内容に触れる予定。
- 「音楽」とは何か、世の中にはどんな音楽があるのか
- 西洋音楽史の時代区分とその様式的特徴
(中世、ルネサンス、バロック、近代(古典派・ロマン派)、現代)
- ポピュラー音楽の代表的ジャンルの特徴と歴史
(ジャズ、ロック、中南米音楽、その他)
- 民俗音楽と民族音楽
- その他
例年受講者が多く、授業が私語で妨害されやすい。本当に必要だと思う人だけが受講してほしい。
- 成績評価の方法:授業内テストと学年末試験(予定)
- 使用テキスト:特になし。適宜プリント配布予定。
- 留意事項:特になし
講義メモ
◆今日の1曲
ノラ・ジョーンズ Norah Jones: Don't Know Why (2002)
アルバム"come away with me" (東芝EMI TOCP66001)より
■講義について
●基本姿勢(講義要目参照)
◆ねらい:音大生としての最低限の常識を身につけること
「常識」といってもいろいろある訳だが、ここ数年やってきたのは基本的に
音楽文化を広く浅く眺めること
特に
・ポピュラー音楽や民族音楽を含む音楽の様々なジャンルを知る
・クラシックに関しては様々な時代のスタイルを理解する
◆背景(なぜこういう授業をやるのか)
私たちを取り巻く現代の音楽文化はかつてなかったほどに複雑かつ多様化している
* 昔は地域や時代、世代や社会階層などによって(つまり文化によって)音楽が分かれており、ある文化に属する人間が他の文化の音楽に触れることは少なかった
* しかし現代の私たちの回りにはあらゆる時代や地域の音楽があふれており、人々はそれをよりどりみどり選ぶことができる。
* しかも様々な音楽が相互に関係しあったり、メディアやテクノロジーの発達を背景に新しいジャンルが生まれたりして、状況はどんどん複雑化している
* 音楽が「いつでもどこでも好きなように」聴けるようになったのはごく最近の話。昔は生の演奏家をつれてくるか、そこに出向くかしなければならかった。オーディオ装置が登場してからも、しばらくはオーディオセットという特別なモノのある所に出向かなければばならなかった。
こういう状況は、音楽文化が「豊か」になったという意味では歓ばしいことだが、反面、音楽文化の全体像を捉えることを困難にする一方、音楽大学は今もなお基本的にクラシック中心の音楽教育を続けており、大学の外の現実世界とのギャップがどんどん開いていく
* にもかかわらず、現実社会は音大生に「音楽のプロ」としての知識や適応能力を期待する
* なぜ音楽大学ではクラシックが中心なのか?→近代的な音楽学校が生まれた時代が、ちょうどクラシックの時代だったから。当時は「現代の音楽」としてモーツァルトやベートーヴェンを扱った。その後音大の外の音楽文化はどんどん変化し、多様化していくのだが、音大(コンセルヴァトアール=保存庫)の中では音大誕生の頃の文化がそのまま守り伝えられてきた。
学生の中には、音大の中の音楽文化と外の多様化した音楽文化との間の折り合いを適当につけ、要領よく道を進んで行く人もいる。
しかし他方では、両者のギャップに馴染めず、戸惑ったり道に迷ったりする人もいる。この授業は、そんな人たちの役に立ちたい。→音楽文化の大雑把な見取り図を提示することで、学生が自分がどこにいるのかを知り、どこに行けば良いのかを考えるための手がかりになることをめざす・各ジャンルに関する詳しい知識を得たい人はそれに応じた専門科目を履習してもらいたい
・音楽文化の森の中で迷う心配のない、好奇心旺盛な人や要領のよい人には無駄
◆様々なジャンルが相互に絡み合う例
インドのシタール奏者ラヴィ・シャンカール(Ravi Shankar, 1920-)
インド古典音楽を世界に知らしめ、1960年代からビートルズをはじめジャズ、ポピュラー、クラシックなど様々なジャンルの音楽家と交流し、影響を与えた。
ちなみに「今日の1曲」で取り上げたジャズ・シンガー、ノラ・ジョーンズは先妻との娘
[LD]『シタールの巨匠ラヴィ・シャンカル』 (音大図書館請求番号VD468)
●約束ごと
◆出席はとる
◆私語など授業妨害は禁止
◆授業に対する要望や意見は極力反映させたいので、積極的に申し出ること
◆学生のコメントから
- ・ノラ・ジョーンズとラヴィ・シャンカールの音楽に共通点はありますか?
- ノラはごく幼い頃から父親と離れて暮らしており、成長過程でインド音楽との接点はあまりなかったようです。アルバムの中に無理矢理インドっぽい響きを探そうとすれば何ヶ所かそれっぽい所を挙げることもできるでしょうが、多分偶然の産物というべきものだと思います。
- ・「今日の1曲」を講義中BGMのように流しておくのは無理でしょうか?
- 無理です。ただでさえ眠くなりがちな私の話に余計集中してもらえなくなるので(^^;
- ・リクエスト。Shania Twainの"UP!"を聴かせてください
- この授業の「今日の1曲」は、基本的にそこから何か話題が引っ張り出せるようなもの、つまり授業のネタになりうるものを選んでいます。「この曲のこういうところが面白いからぜひ他の人に知ってもらいたい」というような理由がある場合には、そう書いてくだされば採り上げるかもしれません。でも単に「自分が聴きたい」だけなら、リクエストにはお応えできません。あしからず。
- ・なるべくプリントや黒板に書いてくれると助かります。
プリントにまとめてあるものが欲しいです。参考文献も載せてください。
- ・プリントは……前回配ったようなものではダメなんでしょうか?それからプリントに書いてあることまで板書する必要はないと思うのですが……。授業中はなるべくプリントを追いながら、そこに私が話した内容をメモしていくようにしてください。 参考文献は必要に応じて適宜紹介するつもりです。
- ・人物紹介をするときは黒板に人名を書いてください
- ラヴィ・シャンカールの名前、書くべきでした。ごめんなさい。ヴィデオの字幕で補えるかと思ったのですが、無理ですよね。プリントにない固有名詞はなるべく板書するよう心がけます。
- マイクの音量をもう少し上げてください。
- 去年ほど大人数ではなかったので、充分聞こえるかと思ったのですが……。たぶん音量よりも明瞭度の問題かと思いますので、はっきり喋るよう心がけます。
- ・噂に聞いたミッチー(及川光博)の授業を受けてみたいです
- (^^;。
- ●音楽とは
- 一般的理解(辞書などの定義):「音による芸術」
- しかし広い視野から見た場合、単に「音の芸術」でない「音楽」が圧倒的に多い
- 音楽を「音芸術」へと狭めたのは西洋近代
- ←→近代以前の音楽には「音」や「聴覚」の面だけでは捉えきれないものが多い
- ●音楽の始原:ムーシケーと神楽
-
- ●musicの語源→ムーシケー
- ミューズの女神たちの司るものの総称
カリオペ | 叙事詩
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クレイオ | 歴史
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エウテルペ | 抒情詩
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タレイア | 喜劇
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メルポメネ | 悲劇
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テルプシコラ | 合唱と舞踊
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エラト | 恋愛詩
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ポリュヒュムニア | 讃歌
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ウラニア | 天文
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- →必ずしも「音の芸術」ではない
- ◆古代ギリシャ劇についてのヴィデオを視る
- [Video] "Staging Greek Tragedy"
- (Ancient Theatre & Its Legacy, University of Warwick,1987)
- 音大図書館の請求番号:VB1536
- ●日本最古の音楽に関する記述
- 『古事記』中の天岩戸のエピソードでアメノウズメノミコトが踊る場面
- →神楽(かぐら)
- 歌と踊りが一体となり、神々のものであるという点でムーシケーと共通
- ◆現代に伝わる神楽のヴィデオを視る
- 宮城県石巻市 牡鹿法印神楽 『磐戸開』
- [Video]民俗芸能映像記録の会制作『牡鹿法印神楽第2巻』(1980年撮影)
- 音大図書館の請求番号:VB63
- ●ムーシケー的・総合的「音楽」の現在
- ムーシケー的音楽は今日に至るまで、洋の東西を問わず存在しつづけている
- 現代では、テクノロジーの発達によってその新たな可能性も追及されている
- ●視覚的音楽の可能性
-
「音楽」が単なる「音の芸術」ではない、という考えを更に進めると、「音」や「聴覚」の要素を取除いた「音楽」の可能性も浮かび上がってくる
- 例:ジョン・ホイットニーJohn H. Whitney(CGの先駆者)のVisual Harmony、佐藤慶子の聾者のためのVisual Musicなど
- ◆ホイットニーのVisual Harmonyのヴィデオを視る
- [LD]『ジョン・ウイットニーの世界(映像の先駆者シリーズ)』
- 音大図書館の請求番号:VD2508
- ◆今日の1曲
- (授業の本編には出てきそうにない、しかし興味深い音楽を毎回紹介)
- ペンギン・カフェ・オーケストラ:《スケルツォとトリオ》
- Penguin Cafe Orchestra
- "Scherzo And Trio" from album "UNION CAFE" (1993)
- [CD]音大図書館の請求番号(同じアーチストの別のアルバム):XD13300、XD14205、XD16362
学生のコメントから
- 音だけが音楽ではないということに感動した
- 音楽とは、といわれても案外答えられそうにないものですね
- 21世紀を迎えて色んなことが当たり前になっていて、私たちの音楽に対する定義も一つになってきていて、疑うことがなかったが、改めて考えることができた。
- 近年のクラブシーンではDJと供にVJもCG等で電子音に併せて表現する方たちが増えています。視覚と聴覚をプラスしたトリップというのをリスナーは求めているのでしょう
- 総合[的なもの]→音楽、また音楽→総合、どちらが良いか分からないが、結局また「音楽を含む総合」という一つの分野が生まれるだけかもしれないとも思った
- 現代音楽の演奏会で電子音楽宇宙回転して聞こえる作品を聞いたことがあって驚きました。今はどんな試みがなされているのでしょうか
- 講義内で使われたビデオやCDのタイトルを見る前に知りたい
←一応ごく簡単には言ってるつもりなのですが、今後はもう少し詳しく伝えるように心がけます。なお、授業終了後になりますが、このサイトではきちんとクレジットしていくつもりです。
- ミューズは一人の女神の名前だと思っていた
- 古代ギリシャの言葉が現代の音楽用語の語源になっていることを知って、音楽が脈々と受け継がれているのだな、と実感した
←正確に言うと、古代ギリシャの場合は、言葉や音楽についての考え方は受け継がれても、音楽そのものは後世のヨーロッパには受け継がれませんでした。中世以降のヨーロッパ人は古代とは全く違う音楽文化を作り上げていったのですが、用語や思想については多くの部分を古代から借りた、ということなんです
- 神楽のヴィデオについて
- 岩戸を何で表現するのかと思ったら屏風だった。なるほど!!と思いました
- 天照大神の話は音楽療法の起源でもあると思った。音で人の心を動かすなんてすごい
- 日本の踊りに興味を持った
- ホイットニーのヴィデオについて
- とても印象的だった。引き付けられた
- これなら耳の聴こえない人も「音楽」を楽しめのでは、と思った
- 私の中で新しい「音楽」の発見だった
- 興味深いが、これを「音楽」と定義するのは少し疑問
- たしかにリズムみたいなものは伝わってきた。でも少し目が回った。
- 少し気味悪かったけど不思議で目を離せなかった
- 言ってること(説明)がよくわからなかった
- 「予測する楽しみ」って言ってたけど予測できなかった
- 花火に音楽をつけるというのもすこしに照るかな、と思った
- 先生を3月17日6:30くらいに新宿で見ました← (^^;
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文責:吉成 順 ©2003 Jun YOSHINARI
Last update: 20250529