■調性からの逸脱の(シェーンベルク以外の)例
- ◆ドビュッシー:《前奏曲集》より「帆」 [譜例集]
- [CD]ツィメルマン(Pf):XD29079/-29080
- 音大図書館の請求番号:
- この曲は長調でも短調でもない。「全音音階」つまり音階の並びが全て全音で半音を一つも含まない6音音階でできている。曖昧模糊とした一種独特の曲の雰囲気は、この音階によるところが大きいのである。調性からの逸脱を試みたのはシェーンベルクのように複雑で「難解」な音楽を書いた人だけではない。ドビュッシーのように人々に親しまれている作曲家でも、それぞれの立場と手法で、調性の枠を超えようと試みていたのである
学生のコメントから
- 先週の授業でグレゴリオ聖歌にハマり二つの教会に行ってみたが、今ではグレゴリオ聖歌を歌うカトリック教会が少ないそうで、まだグレゴリオ聖歌を歌う教会を見つけられません←1960年代に「第2バチカン公会議」というカトリックの世界的な会議が開催され、従来のラテン語の聖歌に代わってそれぞれの国の言葉で聖歌を歌うことが認められました。以来、日本のカトリック教会でも新しく作られた日本語の聖歌を歌うところが増え、グレゴリオ聖歌を日常的に歌う教会が減ってしまったのです。
- グレゴリオ聖歌は男のお坊さんだけのものだったのですか?←カトリック教会の聖歌隊は中世の昔から伝統的に女人禁制です(唯一の例外は女子修道院)。なぜか、というのは難しいですが、そもそもはキリスト教の前身ともいうべきユダヤ教にも既に見られる男性中心主義というか女性蔑視の長い文化的伝統が背景にあるのだと思います
- バロックの例でヴィオラ・ダ・ガンバを使っているが、昔は高音パートもヴァイオリンじゃなくてガンバだったのですか←ヴィオラ・ダガンバはルネサンス時代にはソプラノからバスまで様々な音域の楽器が用いられていましたが、バロック時代になると高音域はヴァイオリン族に取って代わられます。かろうじてバスだけが通奏低音楽器として生き残っていたものの、その地位も次第にチェロに奪われていくことになります
- ビデオで映像といっしょに音楽を聴けてよかった(多数)
- モノフォニーの音楽はCDだけで聴いてしまうとつまらないと思ったがビデオを見たら価値観が換わった
- 演奏者の名前もちゃんといって欲しい
- 曲を途中で切らないで下さい
●様式史のまとめ:小テスト
- *11の音楽を聴き、その時代とそう判断した根拠を書く
- 1) ジョスカン・デ・プレ:《アヴェ・マリア》
- [CD]ヘレヴェッヘ指揮 請求番号:XD2437、XD27250
- 2) ブラームス:《ヴァイオリン・ソナタ第3番》
- [CD]パールマン(vn)ほか 請求番号:XD25945(同曲異演多数)
- 3) シュトックハウゼン:電子音楽《習作II》
- [CD] 請求番号:XD38401
- 4) ギヨーム・ド・マショー:《ノートル・ダム・ミサ》
- [CD]タヴァーナー・コンソート 請求番号:XD1159、XD45689
- 5) カッチーニ:《アマリリ美わし》
- [CD]ベアード(sp)ほか 請求番号:XD9991
- 6) ベートーヴェン:《弦楽4重奏曲「ラズモフスキー」第3番》
- [CD]アルバン・ベルク4重奏団 請求番号:XD688/-690、XD26129、XD21397/-21400
- 7) メリスマ・オルガヌム:《全能の創り主》
- [CD] アノニマス4 請求番号:XD36128
- 8) パレストリーナ:ミサ曲《来たれキリストの花嫁》
- [CD]セント・ジョンズ・カレッジ合唱団 請求番号:XD20488
- 9) グレゴリオ聖歌:《キリエ4番》
- [CD]ソレーム修道院 請求番号:XD7837/-7857、XD31351/- 31370
- 10)シェーンベルク:《ピアノのための組曲》
- [CD]エルフェール(pf) 請求番号:XD5426、XD16747
- 11) コレルリ:《トリオ・ソナタ》
- [CD]コープマンほか 請求番号:XD4828
●20世紀に現れた新しい傾向の補足
- *新しい音組織(音素材)を追求した例
- 4分音(半音の半分の音程)の音楽
- ◆ハーバ Alois Haba 《ヴァイオリンと4分音ピアノのための幻想曲》Op.21
- [CD]ノヴァーク(Vn)ほか(チェコ:スプラフォン盤)
- 音大図書館にはないようです
- *12音技法のシステムを音高だけでなく音の長さ・強弱その他にも応用
- 音列音楽(全面的セリーの音楽)
- ◆メシアン Olivier Messiaen 《4つのリズムのエチュード》より《音価と強度のモード》
- [CD]高橋悠治(pf)
- 音大図書館の請求番号:XD14596(違う演奏)
- *もっと紹介したかったけど、時間がなくてここまで(^^;
学生のコメントから
- 全面的セリー音楽についてもう一度説明して欲しい
- 中世とルネサンスの旋律の流麗さの違いには驚いた。よく聴けばルネサンスの旋律の方がだんぜん聴いていて気持ちが良かった。
- 一区切りごとにこのようなテストがあると確認になってよい
- 今までの授業の中で一番面白かった
- 4と7が中世だなんてトリックだー!!
- 20世紀以降の「現代音楽」を聴いていると音楽っていったい何をさすのかわからなくなる
- 20世紀以降の無調の音楽は不快で情緒不安定になるから、あまり耳にしたくない
●先週の小テストの総括
-
| | 時代 | 正答率
|
| 1) ジョスカン | ルネサンス | 74%
|
| 2) ブラームス | 近代(ロマン派) | 74%
|
| 3) シュトックハウゼン | 20世紀 | 98%
|
| 4) マショー | 中世 | 46%
|
| 5) カッチーニ | バロック | 78%
|
| 6) ベートーヴェン | 近代(古典派 | 80%
|
| 7) メリスマ・オルガヌム | 中世 | 69%
|
| 8) パレストリーナ | ルネサンス | 78%
|
| 9) グレゴリオ聖歌 | 中世 | 98%
|
| 10) シェーンベルク | 20世紀 | 98%
|
| 11) コレルリ | バロック | 63%
|
- ・マショーが一番正解率が低かった。これは予想通り。中世とルネサンスの違いの決め手は3度・6度の響きの有無だが、これはたくさん聴いて感覚をつかむしかない
- ・コレルリの出来が意外に悪かった。バロックと近代(古典派)の違いは演奏スタイルによっては分かりにくいことも多いが、旋律の動きや声部間の関係などに注意すれば分かるはず。それもたくさん聴いてつかむしかない
●古代ギリシャの音楽
- *様式史が一旦終わったところで、古代の音楽を見ておくことにする
- ■(中世以降の)西洋音楽への古代ギリシャの影響:例えば音楽用語に現れている
- オーケストラ、コーラス、リズム、メロディー、ハーモニー……
- 音楽(music, musique, Musik)の語源もギリシャ語の「ムーシケー」
- ■ムーシケー:ミューズの女神たち(ムーサイ)の司るもの
-
| カリオペ | 叙事詩
|
| クレイオ | 歴史
|
| エウテルペ | 抒情詩
|
| タレイア | 喜劇
|
| メルポメネ | 悲劇
|
| テルプシコラ | 合唱と舞踊
|
| エラト | 恋愛詩
|
| ポリュヒュムニア | 讃歌
|
| ウラニア | 天文
|
- *詩はもともと歌われたり朗誦されたりするもの
- *歴史は叙事詩を紙に書き記したところから生まれた、と考えると音楽と無関係ではない
- *天文は、ピタゴラス以来の「天体が音楽を奏でている」という発想によって音楽と結びつく
- →音楽と舞踊、文芸、演劇などが一体となった総合的なものがムーシケー
- →音楽は神とともにある
- ◆古代ギリシャ劇についてのヴィデオを視る
- [Video] "Staging Greek Tragedy"
- (Ancient Theatre & Its Legacy, University of Warwick,1987)
- 音大図書館の請求番号:VB1536
- ■楽器も神と結びつく
- 竪琴(リラ、キタラ):太陽神アポロ
- アウロス(複管ダブルリードの木管楽器):酒神ディオニソス
- シュリンクス(パンフルート):牧神パン
学生のコメントから
- 小テストの正解率が高いのに驚いた。頑張らなくてはいけないと思った
- 古代ギリシャの記録で残っているものって何があるんですか?←音楽そのもの(楽譜)は断片的なものがわずかに残っているだけですが、音楽について書かれた文章や絵画は沢山あります。音楽については次週紹介する予定です
- ウラニアの天文の話が面白かった。ドレミファソが宇宙とつながってると思うと凄い。昔、映画で宇宙の音楽というのを聞いたことがあります(スターウォーズ?)←「未知との遭遇」では?
- 古代ギリシャ・ローマの宗教事情に関心があり、聞かねばと思いつつ寝てしまった。夢にパルテノン神殿が出てきた。←^^;
- 前に「音楽教育学」の授業でもムシケーのことについて聞きました。吉成先生と解釈(?)が違っていて面白かったです←どう違ったのか、できれば今度教えてください
- 覚えることが多くなったような気がする←全部が全部おぼる必要なんてありません。後から何かのきっかけで「そういえばこんなこと、授業で聞いた気がするなあ」とぼんやり思い出す程度のものが頭の中に残れば、それでいいと思います。詳しいことが必要なら、その段階で本などで調べればよいわけですから。
- 何が大事で何が大事じゃないのかわからない←(^^;メリハリのついた話し方ができるよう、心がけます。
- 今日はギリシャの神様がいっぱいいて楽しかった
●古代ギリシャの音楽(その2)
-
- ◆ギリシャの音を聴く
-
- エウリピデスの劇『オレステイア』のための合唱(スタシモン)
- {CD}De Organographia (Pandourion、PRCD1001)
- 音大図書館の請求番号:XD7712(異演)
- ■古代ギリシャ市民の音楽生活
-
- ◆祭り
- ・前夜祭、行列、いけにえの儀式、奉納行事(スポーツ大会、演劇大会など)の全てを音楽が彩る
- ・ギリシャ劇:すべて音楽劇
- ◆饗宴(シュンポシオン)
- ・食事の後、酒を飲みながら談論
- ・みんなで歌を歌ったり、芸人の歌舞を楽しんだり
- ◆日常生活に伴う音楽
- ・生活の節目の神への讃歌(パイアン)
- ・教養(教育の一環)として音楽が必須だった
- ■「エートス論」:音楽が人間に(ひいては国家運営に)及ぼす影響を論ずる
- ・プラトン『国家』『法律』アリストテレス『政治学』などで論じられている
- ・良い国家指導者の育成のためにはどんな楽器や音階が望ましく、どんなものが良くないか
- ・ちなみに、ここで論じられている音階(ハルモニア)が具体的にどんなものだったか、は今となっては不明
- ■古代ギリシャの楽譜
- ・音高をアルファベット(に由来する記号)で示す
- ・リズムは詞の韻律による
- ・楽譜の断片は(数え方にもよるが)40ほど残っている
-
- ◆例:セイキロスの歌(スコリオン)
- {CD}De Organographia (Pandourion、PRCD1001)
- 音大図書館の請求番号:XD7712(異演)
- ■アリストクセノスの音階論
-
- ・音階(ハルモニア)を体系化
- ・最小単位はテトラコード
- ・4つの(テトラ)音(コード)からなり、外側の2つは完全4度
- ・中の2音のとり方によって「ディアトニック」「クロマティック」「エンハーモニック」の3種に区別される
- ・2つのテトラコードをつなぐとオクターヴの音階ができる
- ・それらを包括するのが「全音階的完全組織」
- ◆アリストクセノスはこうしてできた音階(ハルモニア)に、既存の音階名と同じドリア、フリギアといった名称を与えた
- ・もともとこれらの名は地域名であり、音楽に関しては各地方の独自な音階を指していたと思われる。
- ・そうした自然発生的な音階と、アリストクセノスの合理化された抽象的な音階とでは、名称が同じでも実態は全く違っていた。
- ・更に、これらの音階名は中世以降の教会旋法とも同じだが、これらも中世の人々が名前だけを引き継いだもので、実態は全く違うことに注意されたい
●古代ローマの音楽
- *時間の都合でアウトラインのみ解説
- ・基本的には古代ギリシャの音楽文化を踏襲
- ・ローマ独自のものとしては軍楽用の金管楽器、水力オルガンなど
- ・後の「西洋」音楽史にとって重要なのは、ローマの領土全域にキリスト教を普及させたこと
■世俗音楽の歴史
- ●中世の世俗音楽
-
- ■職業的音楽家たち
-
- ・ジョングルール jongleur
- 音楽のみならず踊りや曲芸、手品なども行う(ジャグリング)
- 放浪芸人であり、社会的地位は低い(cf.「ハーメルンの笛吹き」)
- ・ミンストレル minstrel
- ジョングルールがお抱えとなって専門性と地位を向上
- ◆中世の様子を想像するための参考として映画の一部を視る
- [Video]『ロビンとマリアン』(英1976)
- ■踊りの音楽:エスタンピー
- 文献に登場する最古の世俗音楽(グロケイオの『音楽論』、13-14c)
- ■宮廷騎士歌曲
- 騎士が歌を作る
- 南仏のトルバドール troubador が北に伝播してトルヴェール trouvères、更にドイツに伝わって Minnesängerとなる
- ◆トルバドール歌曲の例:ランボー・ド・ヴァケイラス《五月一日》[譜例集2]
- ・ジョングルールの演奏するエスタンピーを気に入ったランボーが詞をつけて歌った、という逸話がある
- [CD]Martin Best中世アンサンブル
- 音大図書館の請求番号:XD1950(異演多数)
学生のコメントから
- 宗教音楽より世俗音楽の方が楽しい。ワクワクした。
- 最後に聴いたエスタンピーは西洋音楽らしくなかった。
- ビデオに出てきた中世のお城を見、「お城=シンデレラ城」のイメージが壊れてショックだった(複数)
- 女・子供の生活はどんなだったのですか?プリントに出ていた放浪芸人の絵には描かれていませんが。
- 宮廷音楽は世俗音楽ということですが、宮廷で教会音楽は演奏されなかったのですか←宮廷の中の礼拝堂のようなことろでは演奏されました。
- ●中世の世俗音楽(承前)
-
- ■宮廷騎士歌曲(続き)
-
- ◆トルヴェールの例:アダン・ド・ラ・アル《ロバンとマリオンの劇》より[譜例集3]
- ・ロビン・フッドの伝説にちなんだもの(人物名のみ、内容は全く関係ない)。劇仕立てになている。
- [CD]アーリー・ミュージック・カルテット
- 音大図書館の請求番号:XD14654(異演)
- ◆ミンネゼンガーの例:ヴァイオリンルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ:《パレスチナの歌》[譜例集4]
- ・十字軍でエルサレムにたどり着いた騎士の心情を歌う。
- [CD]ジョン・ボウマン(CT)マンロウ指揮ロンドン古楽コンソート
- 音大図書館の請求番号:XD18262
- ■マイスタージンガー Meistersinger
-
- ・ミンネゼンガーが庶民化し、職人(マイスター)たちの文化となったもの
- (ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》参照)
- ◆ハンス・ザックス《銀の調べ》
- [CD]ルードルフ・アウエ(Br)
- 音大図書館になし(異演も)。
- ■アルス・アンティカのモテット
-
- ・中世も後半になって多声音楽の技法が複雑化
- →声部の独立性が強い
- →各パートが別々の歌詞を歌う
- *モテット(モテトゥス)という言葉は色々な時代で使われるが、その具体的な中身は時代によって異なる。
本来は宗教的な内容の多声楽曲を指すが、この時代のモテットだけは世俗的な内容のものも含まれている
- ◆《お前さんたち口を開けば―パリでは―とりたてのイチゴ》
- ・最上声部は田舎の人にパリの生活の楽しさを伝える詩、真中の声部はパリの楽しさを歌う詩、そして最低声部(定旋律)はパリの街角に立つイチゴ売りの呼び声
- ・物売りの声を定旋律にして、モテットならではの方法でパリの華やかな生活を歌ったもの
- {CD}マンロウ指揮ロンドン古楽コンソート
- 音大図書館の請求番号:XD18931/-18932
- ●中世の世俗音楽(承前)
- ■放浪学生 Goliard たちの歌
-
- 修行中のお坊さんの卵たちが歌った歌の記録がある
- 宗教的なものだけでなく、酒、女、博打など血気盛んな若者たちの生活に伴った歌が多い
- ケンブリッジ写本(英)とカルミナ・ブラーナ(独)が有名
- *カルミナ・ブラーナ Carmina Burana
- バイエルン(南ドイツ)の修道院に伝わる歌集。大半は歌詞のみだが、旋律つきのものもある
20世紀の作曲家オルフ Carl Orff の《カルミナ・ブラーナ》(1937)は、この歌集の詩に独自の音楽を付したもので、音楽は中世音楽とは関係ない。
- ◆「カルミナ・ブラーナ」より Bache, bene venies
- 酒の歌
- [CD]クレメンチッチ(クレマンシック)・コンソート
- XD11866/-11868(異演あり)
- ■中世後期の時代区分と世俗音楽
-
- ◆ゴシック(ノートル・ダム楽派の時代、アルス・アンティクア):1150-1300
-
- 「ゴシック」は建築や美術で主に用いられる時代概念。音楽ではあまり一般的ではない。
- ゴシックを代表するのは巨大な塔(ドーム)のついた壮大な教会建築(パリのノートルダムなど)、それを飾るステンドグラスや彫刻、宗教的な細密画など
- パリのノートル・ダム寺院で活躍した音楽家が「ノートル・ダム楽派」
- 次のアルス・ノヴァ(新技法)に対応する概念として用いられる語が「アルス・アンティクア(旧技法)」
- (「アルス・アンティクア」をより狭く13世紀後半辺りからに限定することも多い)
-
- ■多声音楽の技法が複雑化するに従い、記譜法も発展 → 定量記譜法(計量記譜法)
- 音符の形で相対的な長さが決まる(今の楽譜と同じ):ただしこの時代は3分割のみ(この点が旧技法)
- ◇ゴシックの世俗音楽
-
- ・モテット(モテトゥス):パートごとに違う歌詞!→先週確認済み
- ・ホケトゥス:本来は「しゃっくり」の様にパートが細かく交代する技法をさすが、そうした技法をもっぱら用いて作られた楽曲ジャンル名としても用いられる
- *技法としては教会音楽も含めたあらゆる多声音楽に用いられる。ここで「世俗音楽」としてホケトゥスを紹介するのは、次の例に見るように、独立したジャンルとしてのホケトゥスではしばしば歌詞が取り去られ、本来の歌詞とは無縁の形で(教会の外でも、時には器楽曲としても)演奏されたと考えられるからである
- ◆ホケトゥス《イン・セクルム》[譜例集14]
- [CD}シアター・オブ・ヴォイシズ
- 音大図書館の請求番号:XD41702
- ・カノン:イギリスで流行
-
- ◆カノン《夏が来た》[譜例集16]
- [CD]ヒリヤード・アンサンブル
- 音大図書館の請求番号:XD15645
- ◆アルス・ノヴァ:1300-1450
- 「アルス・ノヴァ Ars Nova」はもともとフィリップ・ド・ヴィトリによる記譜法の理論書(1322)
- →ここで2分割の定量記譜法が認められるようになる(新技法)
-
- ■フランスのアルス・ノヴァ
-
- 代表的作曲家:ギヨーム・ド・マショー Guillaume de Machaut (ca.1300-1377)
- ◆マショー:ヴィルレ《私はなんと幸せなのか》[譜例集17]
- [CD}アンサンブル・ギヨーム・ド・マショー
- 音大図書館の請求番号:XD14566/-14567
- ◆マショー:ロンドー《私の終わりは私の始まり》[譜例集18]
- 楽譜を最初から読んでも後ろから読んでも同じ、つまり「たけやぶやけた」のような回文式に作られた曲。作曲技法についてのマショーの自信と遊び心が表れている。こういう凝った曲が作れるほどに記譜法が発達してきた、という証拠でもある。
- [CD]同上
- ■トレチェント音楽(イタリアのアルス・ノヴァ)
-
- 代表的作曲家:フランチェスコ・ランディーニ Francesco Landini (ca.1325-97)
- ◆ランディーニ:バッラータ《涙まなこにあふれ》
- [CD]アッラ・フランチェスカ
- 音大図書館の請求番号:XD21940
- ◆ゲラルデッロ・ダ・フィレンツェ:カッチャ《ああ、すばらしい日の夜が明けるや否や》
- カッチャは狩の描写曲。詩も狩にちなみ、音楽も狩を思わせる追いかけあい(カノン)やホルン音型などが用いられている
- [CD}アンサンブル・モード・アンティコ
- 音大図書館の請求番号:XD21670
●ルネサンスの世俗音楽への導入
■ルネサンスとは?
(一般的な定義)
renaissance: 復興、再生→文化史上では「文芸復興」
→古代の高水準な文化の復興
精神的背景としてのhumanismus(人文主義、人間主義)
カトリック的世界観の束縛からの解放
具体的な現れ:絵画における遠近法
中心はイタリア(フィレンツェ、ヴェネツィアなどを中心とした経済的繁栄)
(音楽におけるルネサンスの特徴)
「古代文化の復興」はない
中心はフランドル(いわゆる「北方ルネサンス」)
「遠近法」に相当する感覚的変化:3度・6度の充実した響きへの志向
■世俗音楽発展の背景
◆人間主義
◆経済の発展→富裕市民=貴族(宮廷)文化の繁栄
◆楽譜の印刷出版→シャンソン、舞曲集など
(cf.:グーテンベルクの活版印刷:1455)
イタリア:ペトルッチPetrucci 1501頃から
フランス:アテニャンAttaignant 1528頃から
フランドル:スザートSusato 1543頃から
●ルネサンス世俗音楽のさまざま
■声楽
◆フランス:
多声のシャンソン
セルミジ Claudin Sermisy c.1490-1562 (譜例集32)
ジャヌカン Clement Janequin c. 1485-1560
ほか
器楽編曲や伴奏付き独唱(エール・ド・クール)の形でも演奏された
◆イギリス:
リュート伴奏歌曲
ダウランド John Dowland 1563-1626 (譜例集35)
◆イタリア:
フロットラ (譜例集33)
ヴィラネッラ
マドリガル
→マドリガリズム(描写的表現)
→マニエリスム(マンネリズム)?
ジェズアルド Carlo Gesualdo c.1561-1613
Moro lasso (譜例集34) の半音階的表現
マレンツィオ Luca Marenzio 1553/54-99
→イギリスにも伝播
■器楽
合奏:リコーダーやヴィオールによるコンソート
独奏:リュート、鍵盤楽器
イギリスにおけるヴァージナルの流行
バード William Byrd 1543-1623 (譜例集36)
モーリー Thomas Morley 1557-1602
ほか
基本的には声楽曲を楽器で演奏する →変奏曲
舞曲:パヴァーヌ(緩い)、ガイヤルド(速い)などを組み合わせる
オスティナート変奏:グラウンド
ルネサンス後期にはカンツォーナ、リチェルカーレなど器楽独自のジャンルが登場
●バロックの世俗音楽への導入
■バロック baroque とは?
◆語源
一般にはポルトガル語の「いびつな真珠 barocco」が語源とされる
→いびつな真珠を金銀細工で飾り立てるのが「バロック芸術」
◆バロックの芸術の一般的特徴:
不均整が生み出すダイナミズム、躍動感
豊富な装飾による華麗さ
◆時代背景:絶対王政の時代
王侯貴族に権力と富を集中し、その権威を絶対的なものにまで強調して
社会的階層性を揺るぎないものにすることで社会の安定を図った
→王侯貴族が自らの権力を誇示する道具として芸術を使用
典型的な例:ルイ14世とヴェルサイユ文化(ビデオ)
●バロックの世俗音楽への導入
■バロック baroque とは?
◆語源
一般にはポルトガル語の「いびつな真珠 barocco」が語源とされる
→いびつな真珠を金銀細工で飾り立てるのが「バロック芸術」
◆バロックの芸術の一般的特徴:
不均整が生み出すダイナミズム、躍動感
豊富な装飾による華麗さ
◆時代背景:絶対王政の時代
王侯貴族に権力と富を集中し、その権威を絶対的なものにまで強調して
社会的階層性を揺るぎないものにすることで社会の安定を図った
→王侯貴族が自らの権力を誇示する道具として芸術を使用
典型的な例:ルイ14世とヴェルサイユ文化
■バロック音楽の特徴:
◆通奏低音(basso continuo 「数字付き低音figured bass」とも)
(様式名であると同時にパート名でもある)
複雑なポリフォニーを最上声とバスだけに整理し、
内声は即興的に和音を埋める
(ルネサンス・ポリフォニーから近代的ホモフォニーへの過渡的状態)
きっかけはオペラの誕生
例: カッチーニ:歌曲集『新音楽』より《アマリリ美わし》[譜例集39]
◆演奏における即興的装飾の重視
例:モンテヴェルディ:オペラ『オルフェオ』より《偉大なる精霊よ》[譜例集 40]
◆対比の強調(コンチタート様式)によるダイナミズム
強弱(ピアノ・フォルテの指示、テラス型)
楽器群の対比(協奏曲[コンチェルト]の成立)
◆器楽独自のジャンルの成立
(声楽や踊りからの独立)
◆音楽の2大カテゴリー:「教会」と「室内」
しかしこの時代以降は、ルネサンス以前と違い「世俗音楽」と「教会音楽」を
完全に分けて説明するのは困難になっていく
(理由は世俗音楽が圧倒的に多様かつ量的にも大勢を占めるようになること、
世俗音楽と教会音楽の様式的な違いが以前より小さくなること、
器楽が台頭してくること、など)
●バロックの声楽ジャンル
■オペラ
誕生:1600年前後のフィレンツェ
いわゆる「フィレンツェのカメラータ」が人為的に作り出す
バルディ伯(パトロン)
リヌッチーニ(詩人、台本)
ペーリ(作曲、歌)
カッチーニ(作曲、歌)
V.ガリレイ(理論)
目的:古代ギリシャ劇の復興
伝統的なルネサンス・ポリフォニーでは実現不可能
→通奏低音を伴なう「モノディー」のスタイルを考案
(カッチーニの歌曲集「新音楽nuove musiche」→譜例集39)
最初のオペラ:ペーリとカッチーニ共作の「エウリディーチェ」
初期オペラ最初の代表作:モンテヴェルディの「オルフェオ」[譜例集40]
アーノンクール指揮ポネル演出の《オルフェオ》のビデオ鑑賞
●バロックの声楽ジャンル
■オペラのイタリアにおけるその後の展開
ローマ派:キリスト教的題材の導入
例:ランディ「聖アレッシオ」
ヴェネツィア派:スペクタクル的要素の強調
例:チェスティ「金のりんご」
ナポリ派:オペラの定型化
代表はA.スカルラッティ
「レチタティーヴォとアリア」の交代による構成
レチタティーヴォ:語り風、音楽は最低限、筋書きを進める
~・セッコ(通奏低音だけの伴奏)
~・アコンパニャート(弦や管の伴奏)
アリア:音楽重視、筋の進行は止まったまま
ダ・カーポ・アリアの定式化
イタリア風序曲(シンフォニア)の確立
急緩急の3部分形式
後の交響曲のもとになる
(後に)オペラ・セリアとオペラ・ブッファの区分
幕間劇からオペラ・ブッファが誕生、急速に流行
代表はペルゴレージ「奥様女中」[譜例集58]
(ここに見られるような明快なスタイルが
近代[古典派]的音楽様式の基礎となる)
■オペラ以外の主な声楽ジャンル
様式的には同時代のオペラと共通
◆オラトリオ:宗教的、比較的大規模
特にキリストの受難を扱ったものが「受難曲」
◆カンタータ:比較的小規模
教会カンタータ:宗教的、礼拝に組み込まれる
世俗カンタータ:世俗的、祝宴などで演奏
●バロックの器楽ジャンル
ルネサンス以前の器楽は基本的に声楽用の曲を演奏するか、即興か、踊りの伴奏
ルネサンス末期からバロック初期にかけて器楽独自のジャンルが確立
* 内は宗教的(キリスト教的)なもの
■声楽由来
[シャンソン→] → カンツオーナ → ソナタ
幾つかの小部分からなる構成→多楽章構成
2種の分類基準:
* 教会ソナタ:緩急緩急の構成
室内ソナタ:舞曲を集めた組曲
* トリオ・ソナタ:上2声+通奏低音
ソロ・ソナタ:独奏+通奏低音
[ミサ、モテット→] → リチェルカーレ → フーガ
対位法的
■[即興→] プレリュード
トッカータ
ファンタジア など
即興的、「導入」「ウォーミングアップ」「チューニング」などの役割
→後により大規模なものが続くことが多い
(「プレリュードとフーガ」「トッカータとフーガ」など)
●バロックの器楽(つづき)
■[舞曲→] 組曲
舞曲の組合せ
基本はアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ
各曲(楽章)間に主題の統一性が見られることが多い
バレエからは「管弦楽組曲」が生まれる
■協奏曲
カンツォーナやシンフォニアの様式の中から確立
楽器群どうしの対比を強調
(最終的に)緩急緩の3部構成
代表的作曲家はコレルリ、ヴィヴァルディほか
*合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)
大き目の合奏群(コンチェルト・グロッソまたはリピエーノ)
と小合奏群(コンチェルティーノ)の対比
*独奏協奏曲(ソロ・コンチェルト)
独奏と合奏の対比
例:コレルリ《クリスマス協奏曲》、女子孤児院でのヴィヴァルディの合奏
●バロックから近代(古典派・ロマン派)への転換:「前古典派Vorklassik」
時期:ほぼ1720年代~1750年代
(作曲家など実質的には「古典派」とほぼダブる)
通奏低音様式からホモフォニー様式へ
作曲の基本は対位法から和声法へ
牽引力となったのはイタリア・オペラ
特にオペラブッファの明快な旋律とシンプルな伴奏
例:ペルゴレージ《奥様女中》(譜例集58)
イタリア以外の中心地
■ウィーン
多楽章ソナタにメヌエット楽章を(中間楽章として)導入
→3楽章(急緩急)から4楽章(急緩メ急)へ
ちなみにメヌエットを終楽章に置く例は既にイタリアに見られた
モン
ヴァーゲンザイル
ディッタースドルフ
J.ハイドン(「古典派」の典型とされる;譜例集62,63)
□ザルツブルク
L.モーツァルト
M.ハイドン
(W.A.モーツァルト)
■マンハイム
当時最高のオーケストラ
クラリネットのレギュラー採用
ダイナミックな演奏:「マンハイム・クレシェンド」
「マンハイムの打上げ花火」
音楽家にはボヘミア出身者が多かった
ヨハン・シュターミッツ(譜例集61)
アントン・シュターミッツ
カンナビヒ
ホルツバウアー
■北ドイツ(ベルリン、ハンブルク)
感情過多様式(empfindsamer Stil)
C. Ph. E. バッハ(譜例集59)
グラウン
クヴァンツ
●「前古典派Vorklassik」(つづき)
■パリ
マンハイム並みのオーケストラ:コンセール・スピリチュエル
ブフォン論争→グルック=ピッチーニ論争
ショーベルト
■ロンドン
バッハ=アーベル演奏会
アーベル
J・クリスチャン・バッハ(譜例集60)
●中世の教会音楽と音楽理論
●中世:西洋(ヨーロッパ)文化の確立期
=ゲルマン民族+キリスト教+中央ヨーロッパの地
*中世(Middle Ages, Mittelalter)という語は古代と近世の間という意味で後に命名
●ゲルマン民族
もともとヨーロッパの北東部にいたが、東方から押されて大移動
cf.:タキトゥス『ゲルマニア』
●キリスト教
もともとはユダヤ教の異端として始まる
ユダヤ教の頃から礼拝で音楽を重視
cf.:旧約聖書、詩編
●中世のキリスト教音楽
●グレゴリオ聖歌 (譜例集1 )
各地で歌われていた聖歌を統一したもの
ローマ: 古ローマ聖歌
ミラノ: アンブロジオ聖歌
フランス: ガリア聖歌
スペイン: モサラベ聖歌
他にエチオピア、エジプト、アルメニアなど
→ 統一 →グレゴリオ聖歌(新ローマ聖歌)
*名称は法王グレゴリウスI世に由来するが、彼だけが作ったり集めたりしたわけではない
●中世の教会音楽と音楽理論(続き)
●グレゴリオ聖歌の歌われる機会(譜例集 iv - x ページ)
ミサ 最後の晩餐を記念し象徴的に再現する最重要な儀式
日曜、祝祭日、冠婚葬祭などに伴なって行われる
ミサ通常文:全ミサに共通
キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイ
ミサ固有文:ミサ(の日付や目的)によって変わる
聖務日課 (教会や修道院における)毎日のおつとめ
●聖歌の歌われ方
交唱: 2群が交互に歌う
応唱: まず先唱者が歌い始め、残りがあとに続く
●記譜法
ネウマ譜 → 4線譜
→カイロノミーに由来
今日のグレゴリオ聖歌の唱法(楽譜の読み方)
19世紀の聖歌復活運動に由来(ソレーム唱法)
とりわけリズム解釈には異論が多い
●中世の音楽理論
●音階論
教会旋法
基本は4(正格旋法)+その変種4(変格旋法)の8つ
(ルネサンスになってエオリアとイオニアが加わる)
正格旋法 変格旋法
終止音finalis: 旋律が終わる音 支配音 dominant: 旋律の動きの中心となる音
正格と変格の違い:旋律で用いる音域の違い (∴教会旋法は「音階」ではない)
●ヘクサコードとソルミゼーション
グィード・ダレッツォ Guido d'Arezzo (c991-1033以降)が「聖ヨハネ賛歌」から思いついたとされる
この中のut, re, mi, fa, sol, laの6音の並び(hexachord)
を全音階にあてはめる
いわゆる「グィードの手」を用いる
音が足りなくなったらムタツィオン(ヘクサコードの転換=読み替え)をする
●中世キリスト教の音楽観
音楽は必須の学問(自由7課)の一つ
ボエティウス Boethius (c480-524) 『音楽教程De Institutione musica』の影響
音楽の3分類 (宇宙の音楽 musica mundana 人間の音楽 musica humana
道具の音楽 musica instrumentalis )
●中世の教会音楽(続き):グレゴリオ聖歌の変容(9世紀頃~)
■トロープスとセクエンツィア(ヨコ方向の変容)
・トロープス:グレゴリオ聖歌に新しい歌詞や旋律を追加したもの[例:譜例集1e(←1a)]
メリスマ部分(歌詞の1音節にたくさん音が付いた部分)は覚えにくい
→もとの歌詞を敷衍(説明、パラフレーズ)するような歌詞を挿入して
シラビック(1音節1音)にする
→必要に応じて新しい旋律も追加する
・セクエンツィア:本来はアレルヤ唱に対するトロープス → 全く新しい聖歌 [例:譜例集1d、68]
「アレルヤ」は歌詞が短く、可塑性(自由度)が高い
→そこでタテマエ上は「アレルヤのトロープス」といいつつ実質は新しい曲が生み出せる
《怒りの日 Dies Irae》[譜例68]は長い間カトリックの「死者のためのミサ(レクイエム)」
で必ず用いられたため、ベルリオーズ以来多くの作曲家が「死」の象徴として引用している
■オルガヌム(多声化:タテ方向の変容)
・平行オルガヌム(900年頃、譜例6)
著者不明の理論書『ムジカ・エンキリアデス』および『スコリア・エンキリアデス』に掲載
完全4度平行タイプ[6a]と最初と最後がユニゾンで真中が4度平行のタイプ[6b]がある
恐らくは理論上の産物(もっと複雑な実践を後追いしたもの?)
・自由オルガヌム(11世紀、譜例7)
「平行オルガヌム」とは違って取れる音程が「自由」なため、こう呼ばれる
→しかし実際に取れる音程は1,4,5,8度のみ(これが中世の協和音程の全て!)
・メリスマ・オルガヌム(12世紀、譜例8、9b)
聖歌が沢山残っている場所にちなんで サン・マルシャル風(フランス) とか
サンチアゴ・デ・コンポステラ風(スペイン) とか呼ばれることも多い
もとの聖歌1音符に対しオルガヌム声部が2つ以上の音をつける
→オルガヌムがメリスマ的になるため、こう呼ばれる
→逆に、もとの聖歌は音が保たれる(tenere)ので、そのパートはテノール(tenor)と呼ばれる
また、多声化のもととなっている聖歌の旋律をカントゥス・フィルムスcantus firmusという
■ゴシック(ノートル・ダム楽派の時代、アルス・アンティクア):1150-1300
・ノートル・ダム楽派のオルガヌム
テノールが異様に引き伸ばされ、ほとんどドローンと化す
上声はモード・リズムによってリズミカルに動く
モード・リズム:楽譜の書き方(音符の組合わせ)によって6種のリズム・パターンを示す
二人の代表者
レオニヌス(レオナンLeonin) 2声のオルガヌム [譜例9c、10]
ペロティヌス(ペロタンPerotin) 3~4声のオルガヌム [譜例11]
・モテット
各パートがそれぞれ別々の歌詞を歌う
(モテットという語は宗教的な声楽曲を指して色々な時代に使われるが、
その実態は時代毎に異る)
◆多声音楽の技法が複雑化するに従い、記譜法も発展 → 定量記譜法
音符の形で相対的な長さが決まる(今の楽譜と同じ):
ただしこの時代は3分割のみ(この点が旧技法)
■アルス・ノヴァ:1300-1450
Ars Nova:もともとフィリップ・ド・ヴィトリの理論書名(1322)
2分割の定量記譜法を公認 → 複雑な音楽の記譜・作曲が可能となる
テンプスtempus: ブレヴィス■をセミブレヴィス◆に分割
プロラツィオprolatio: セミブレヴィス ◆ をミニマに分割
それぞれに完全(3分割)と不完全(2分割)がある
例:ギヨーム・ド・マショー 《ノートル・ダム・ミサ曲》[譜例19]
一人の作曲家による最古の通作ミサ曲
アイソリズムisorhythmの技法が用いられている
●ルネサンスの教会音楽
■初期ルネサンス
イギリスでの3度6度の響きの流行が大陸(ブルゴーニュ楽派)に伝わる
例: ダンスタブル モテット 《聖霊よ来たりたまえ》 (譜例集22)
デュファイ モテット 《花の中の花》 (譜例集24)
世俗音楽の教会音楽へ影響
例: デュファイ シャンソン 《もしも顔が青いなら》 (譜例集25)
器楽用 《もしも顔が青いなら》 (譜例集27)
ミサ曲 《もしも顔が青いなら》 (譜例集26)
循環ミサ:ミサの各章(キリエ、グローリア…)が共通の低旋律に基づく
■盛期ルネサンス
フランドル楽派の活躍
昔は「ネーデルランド楽派」とも呼ばれた。
フランドルは現在のベルギー~北フランスあたり。
代表者: オケゲム Johannes Ockeghem c.1410-1497 (仏)
譜例28 《種々な比率によるミサ》
イザーク Heinrich Isaac c.1450-1517(伊、墺)
ジョスカン Josquin des Prez c.1450/5-1521(伊、仏)
譜例29モテット《アヴェ・マリア》
オブレヒト Jacob Obrecht 1457/8-1505 (伊)
通模倣によるポリフォニーのスタイルを確立
フランドル出身の音楽家がヨーロッパ中で活躍することで様式の国際的統一が実現
■後期ルネサンス
宗教改革
ルターによるプロテスタント・コラールの成立(譜例集37)
既存の聖歌のほか民謡や流行歌など民衆に親しまれている旋律に
ドイツ語の歌詞をつけた
(民衆の理解できないラテン語の歌詞や複雑なポリフォニーは避けられる)
反宗教改革
カトリックはプロテスタントに対抗してトレント公会議(1545-63)を開催
典礼の整備や音楽からの世俗的要素の排除などを決定
こうした傾向を代表する音楽家が パレストリーナ Palestrina (c.1525-94)
完成度の高いポリフォニー様式 → 「古典対位法」の模範となる
譜例30、31:モテットとそれに基づくパロディ・ミサ
●バロックの教会音楽
宗教的声楽曲:音楽的にはオペラと同様の様式
オラトリオ:比較的大規模、演技を伴わない
カンタータ:比較的小規模、演技を伴わない
教会カンタータのほかに世俗カンタータもある
例:J.S.バッハ カンタータ《いざ来ませ異教徒の救い主よ》BWV599 譜例集56
宗教的器楽曲
教会ソナタ、教会コンチェルトなど